ポリスチレンフォームは、コストと性能のバランスに優れ、多くの住宅で主に「外張り断熱材」として採用されています。うまく活用することで、省エネ性や耐水性に優れた家を実現できます。
しかし、火災時の燃焼リスクや地震時の剥離リスク、あるいは紫外線で劣化する点など、知っておきたい注意点も少なくない素材です。採用する前に、長所と短所の両方を理解しておきたいですね。
本稿では、ポリスチレンフォーム断熱材の基礎知識からメリット・デメリットまでを丁寧に解説します。本当に自分の家に合っているのか知りたい方は、ぜひ最後までご覧ください。
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ポリスチレンフォーム断熱材とは
断熱性能を高め、省エネ性の高い住まいを実現するために欠かせないのが「断熱材」です。
そのなかでも、コストと性能のバランスに優れ、住宅から商業施設まで幅広く使われているのが「ポリスチレンフォーム断熱材」です。
ここでは、その基本的な特徴をわかりやすくご紹介します。
ポリスチレンフォームの概要
ポリスチレンフォームは、高い断熱性と優れた耐水性をあわせ持つ、プラスチック系の断熱材です。主に床の根太や大引きの間、あるいは外張り断熱で使用されます。
主成分はポリスチレン樹脂で、これを発泡・成型してつくります。内部には無数の独立した気泡が含まれており、この気泡内に閉じ込められた空気が熱の移動を抑えることで断熱効果を発揮します。
グラスウールなどの繊維系断熱材と比べ、ボード状でしっかりしています。現場での取り扱いや設置がしやすく、施工性が良好なところも魅力です。
ポリスチレンフォームの種類(ビーズ法・押出法)
ポリスチレンフォームには、主に「ビーズ法 (EPS)」と「押出法 (XPS)」の2つのタイプがあります。
どちらも同じ原料からつくられていますが、製造方法の違いによって、性能や用途に差が生まれます。目的に応じて、適切な種類を選ぶことが大切です。
▼ビーズ法ポリスチレンフォーム(EPS)
EPSは、小さなポリスチレンのビーズを水蒸気で加熱・膨張させ、金型内で接着しながら板状に成形します。
気泡の粒がやや大きく、間にわずかな隙間ができます。そのため、断熱性や耐水性の面では押出法にやや劣るものの、コストを抑えられる点が魅力です。
身近なところでは「発泡スチロール」としても知られており、家電の緩衝材や簡易な保温箱などに使われています。
▼押出法ポリスチレンフォーム(XPS)
XPSは、ポリスチレン樹脂と発泡剤、難燃剤を混合し、金型から連続的に押し出して成形します。この工程により、内部に小さく均一な独立気泡が形成され、高い断熱性を実現できます。
たとえば、「スタイロフォーム」や「カネライトフォーム」などがXPSの代表例です。住宅の外張り断熱や床下断熱など、性能が求められる現場でよく使われる製品です。
用途に合わせて選ぶなら、断熱性能・耐水性・圧縮強度を重視したい場面はXPS、コストを重視したいならEPSが適しています。また、外壁仕上げ材の種類によって使い分ける場合があります。
参考:発泡プラス地区断熱材連絡会「発泡プラスチック断熱材とは」
ポリスチレンフォームの断熱性能(他の断熱材との比較)
断熱材は、家の快適性や光熱費に直結する、とても重要な建材です。
断熱材の性能を比較するうえで重要な指標のひとつが「熱伝導率 (W/m・K)」です。この数値が小さいほど、熱を伝えにくいことを意味します。
主な断熱材の熱伝導率を比較してみましょう。
繊維系 |
・グラスウール:約0.05~0.03 ・ロックウール:約0.05~0.03 ・セルローズファイバー:約0.04~0.035 ・インシュレーションファイバー:約0.05~0.035 |
---|---|
発泡樹脂系 |
・ポリスチレンフォーム (XPS):約0.04~0.022以下 ・ポリスチレンフォーム (EPS):約0.045~0.03 ・硬質ウレタンフォーム (ボード):約0.035~0.022以下 ・硬質ウレタンフォーム (吹き付け):約0.04~0.023 ・フェノールフォーム:約0.04~0.022以下 |
ポリスチレンフォームは、もっとも普及している「グラスウール」や「ロックウール」より熱を伝えにくい傾向にあります。これは、同じ断熱性能を得る場合、より薄くて済むことを意味します。
一方で「硬質ウレタンフォーム」や「フェノールフォーム」と比べると、熱伝導率は若干劣ります。しかし、価格とのバランスがよく、使いやすい断熱材と言えます。
ポリスチレンフォームは、コストや壁の厚みを抑えながら、断熱性を高めたい場合に有効な選択肢となります。とくにXPSは、断熱性とコストのバランスを考慮したい場面で活躍してくれます。
ポリスチレンフォーム断熱材のデメリット
高い断熱性や耐水性など多くのメリットがあるポリスチレンフォームですが、使用にあたっては注意すべき点もあります。
とくに火災や地震など非常時のリスク、そして施工時や保管時の取り扱いにはじゅうぶんな理解が必要です。
ここでは、ポリスチレンフォーム断熱材の代表的なデメリットについて解説します。
- 火災時に燃焼して多量のススが発生するリスクがある
- 地震時に破損・剥がれのリスクがある
- 紫外線に弱く、直射日光にさらすと劣化する
順番に詳しく解説します。
火災時に燃焼して多量のススが発生するリスクがある
ポリスチレンフォームはプラスチック素材であり、火災時には燃焼し、多量のススや刺激臭を発生させるリスクがあります。
▼軟化点や引火点が低い
ポリスチレンフォームは、約80~120℃で軟化し始め、400℃弱で引火する可能性があります。
グラスウールやロックウールなどの無機質系の断熱材が不燃性であるのに対し、この点は明確な違いと言えるでしょう。
▼溶融しながら燃焼する
ポリスチレンフォームは、一度火がつくと溶けながら燃え、多量の黒煙(スス)を発生させます。
この煙には微量の一酸化炭素など有害なガスも含まれており、視界の悪化や避難の妨げといった二次被害につながる恐れがあります。
一方、火災の際に一酸化炭素と同様に恐れられている「シアン化水素」の発生はないようです。
▼保管や作業中は火気厳禁
建築用として市販されているポリスチレンフォームには、難燃剤が添加されていたり、不燃性のシートが貼られていたりする製品もあります。
しかし「燃えにくくなる」だけであり、不燃材料や準不燃材料、あるいは難燃材料に該当しません。
また、製品によっては可燃性ガスを含む発泡剤が残留している可能性もあり、保管時や施工中の火気には細心の注意が必要です。
ポリスチレンフォームを安全に使用するには、防火性能を補完する建材(石膏ボードなど)との組み合わせが重要です。
地震時に破損・剥がれのリスクがある
ポリスチレンフォームは、ボード状で剛性があります。
一方、繊維系の断熱材(グラスウールやロックウールなど)とは異なり、柔軟性やしなやかさがあまりありません。
▼建物の変形への追従性の低さ
地震が起こると、「層間変形」と呼ばれる建物各階の水平方向のズレにより、家は一時的にしなったり歪んだりします。
グラスウールなどの繊維系断熱材であれば、多少の変形には柔軟に追従できます。しかし、硬質なポリスチレンフォームはその動きに対応しにくく、強い力がかかると変形や損傷を生じます。
たとえば、外壁を塗り壁とする場合は、ヒビ割れを誘発する原因となります。そのため、XPSではなく、より追従性の高いEPSを選ぶ場合があります。
▼ヒビ割れや破損の発生
無理な力が加わると、ポリスチレンフォーム自体にヒビが入ったり、最悪の場合は割れてしまったりする可能性もあります。
とくに開口部の周りや、構造材との接合箇所など、力が集中しやすい部分では破損のリスクが高まります。
▼固定部分からの剥がれ
地震の揺れが大きいと、接着剤やクギ、タッカーといった固定具が外れて、ポリスチレンフォームが下地から剥がれてしまうことがあります。
一度剥がれてしまうと、断熱材に隙間(断熱欠損)が生じ、断熱性能が低下してしまう原因になります。
これらのリスクを軽減するには、適切に施工することが大切です。さらに、建物の耐震性能を高めて変形自体を小さく抑え、断熱材を守る必要があります。
紫外線に弱く、直射日光にさらすと劣化する
ポリスチレンフォームは、プラスチック系の断熱材です。従って、太陽光に長時間さらされると、見た目や性能が徐々に劣化してしまうリスクがあります。
施工中や保管時の取り扱いには、じゅうぶんな配慮が求められます。
▼変色と脆化(ぜいか)が起こる
紫外線による劣化が進むと、断熱材の表面が黄ばんだり褐色に変色したりします。
また、もともと持つ強度や弾力性が失われ、脆くなり、少しの衝撃で割れてしまう場合があります。
▼断熱性能が低下する恐れがある
表面の劣化は、最終的に内部の発泡構造にも影響を与え、気泡が壊れたり断熱材の厚みが減少したりする原因となります。
このようなダメージを受けると、せっかくの断熱性能が低下して、じゅうぶんに機能しなくなる可能性があります。
▼保管時の養生や速やかな施工が必須
ポリスチレンフォームを現場で保管する際は、長時間直射日光にさらされないようにすることが大切です。保管場所の工夫や養生シートの活用で、紫外線劣化を未然に防がなければなりません。
施工中の一時的な露出は避けられませんが、その期間をできる限り短くすることも性能維持のカギになります。設置後はすぐにサイディング等の外装材で覆い、紫外線を遮る必要があります。
ポリスチレンフォーム断熱材のメリット
ポリスチレンフォームが多くの住宅で採用されているのは、デメリットを上回るメリットがあるからです。
ここでは、断熱性・省エネ性・快適性といった観点から、ポリスチレンフォームが暮らしに与えるよい影響をご紹介します。
- 断熱性能が高く、省エネで暮らせる
- 耐水性・耐湿性に優れ、断熱性能が劣化しにくい
- 軽量で加工しやすく、施工性に優れる
順番に詳しく解説します。
断熱性能が高く、省エネで暮らせる
ポリスチレンフォームは熱を通しにくい特性を持っており、省エネ住宅を実現するのに適した断熱材です。
熱の出入りをしっかり抑えることで、冷暖房費の削減と快適な住空間の両立が期待できます。
▼熱の侵入・流出を抑制
熱は高いところから低いところへ移動する性質があり、この移動を妨げるのが断熱材の役割です。
断熱性能の高いポリスチレンフォームを使えば、夏は外からの熱が室内に入り込むのを防ぎ、エアコンで冷やされた空気が暖まるのを抑制してくれます。
一方、冬場は室内の暖かい熱が外に逃げるのを防ぎ、暖房器具で暖められた空気が冷やされるのを抑制します。
こうした働きによって、一年を通じて快適な室温を保ちやすくなります。
▼冷暖房効率の向上と光熱費削減
断熱性能が高い家では、冷暖房で調整した室温を長く維持できます。そのため冷房や暖房の稼働時間が短くなり、エネルギーの消費量が少なくなります。
結果として、電気代やガス代などの光熱費を大きく削減することにつながります。
▼快適性の向上
断熱性が不十分な家では、部屋ごとに温度差ができ、不快に感じるでしょう。とくに冬場は、この温度差からヒートショックを起こすリスクが高まります。
ポリスチレンフォームでしっかり断熱された住まいなら、少ないエネルギーで家全体を快適な温度に維持できます。だからこそ、身体にも家計にもやさしい住まいが実現できるのです。
なお、ポリスチレンフォームの断熱性能を最大限に生かすには、適切な厚みの選定と、隙間(断熱欠損)なく丁寧に施工することが不可欠です。
耐水性・耐湿性に優れ、断熱性能が劣化しにくい
ポリスチレンフォームは、内部に独立した密閉気泡を持つ「独立気泡構造」によって、水や湿気の侵入を防いでいます。
そのため、断熱材内部に水分が侵入しにくく、断熱性能の劣化を抑制できます。
▼高い耐水性
空気より水の方が熱を伝えやすいため、断熱材をぬらすのは厳禁です。
グラスウールやロックウールといった繊維系断熱材は繊維の隙間に水分(主に結露水)が入り込みやすく、断熱性能の低下を招いたり、重くなってズリ落ちたりすることがあります。
一方、ポリスチレンフォームはほとんど水を吸収しません。ですから、水分で重くなったり、断熱性能が著しく低下したりすることもほぼありません。
▼高い耐湿性
ポリスチレンフォームの独立気泡構造は、水分だけでなく、湿気も内部に侵入しにくい構造です。よって、湿気によって劣化したり、カビが生えたりするリスクが低くなります。
「湿気による劣化」は、断熱材が長持ちしない原因のひとつです。ポリスチレンフォームは、その点において信頼性の高い素材と言えるでしょう。
軽量で加工しやすく、施工性に優れる
断熱材を選ぶ際、性能だけでなく「施工のしやすさ」も大切なポイントです。
ポリスチレンフォームは軽くて扱いやすく、複雑な形状にも対応しやすいため、施工効率の高い断熱材として現場で重宝されています。
▼優れた軽量性
ポリスチレンフォームは、その大部分が空気で構成されています。そのため非常に軽く、現場への運搬がしやすいのが特徴です。
高所での作業や狭いスペースへの搬入もスムーズにおこなえます。作業者の身体的負担も軽いので、全体の作業効率も向上します。
▼高い加工性
カッターナイフなどの簡単な道具で、手軽に切断することも可能です。たとえば、柱や梁の形に合わせて細かくカットする作業も、特別な道具を使わずにおこなえます。
こうした加工のしやすさにより、断熱材と構造材との隙間を最小限に抑えやすくなります。その結果、断熱欠損を減らし、省エネで快適な住環境の実現に一歩近づくことができます。
まとめ:ポリスチレンフォーム断熱材とは?こんな人におすすめ
ポリスチレンフォームは、高い断熱性・耐水性・加工性を備えた断熱材です。押出法(XPS)とビーズ法(EPS)の2種類があり、用途や予算に応じて選べます。
光熱費を抑えて快適な暮らしを実現したい方、湿気や水濡れが気になる場所の断熱を検討している方、コストと性能のバランスがよい断熱材を使いたい方は、採用を検討してみてはいかがでしょうか。
一方、火災時の燃焼リスクや紫外線による劣化、地震時の破損など、注意すべき点もあるため、適切な施工と設計上の配慮が不可欠です。建築会社選びにも注意しましょう。