住宅の省エネ性能を左右する断熱材の中でも、とりわけ注目されている《硬質ウレタンフォーム》。一度は、その名前を聞いたことがあるのではないでしょうか?
硬質ウレタンフォームは優秀な断熱材ですが、じつは知っておきたい短所もあります。燃焼リスクがあることや、施工技術によって性能が左右されることなど、注意点がいくつかあるのです。
本稿では、硬質ウレタンフォームの特徴や他の断熱材との比較、そしてメリット・デメリットまで網羅的にご紹介します。断熱材選びで迷っている方のヒントになれば幸いです。
硬質ウレタンフォームとは
まずは、硬質ウレタンフォームとはどんな断熱材なのか見ていきましょう。
硬質ウレタンフォームは優秀な断熱材で、住宅の省エネ化に大いに貢献します。言い換えると、冷暖房にかかる光熱費を下げるのに役立つということです。
なお、硬質ウレタンフォームの正式名称は「硬質ポリウレタンフォーム」と言います。しかし、一般的に「ポリ」を省略して呼ばれますので、本稿でもそれに倣います。
硬質ウレタンフォームの特徴
硬質ウレタンフォームは、ひとことで言うと「小さな泡の集合体でできたプラスチック」です。
この泡の中には熱を伝えにくいガスが閉じ込められており、それが高い断熱性能を発揮するカギになっています。
▼何からできているの?
硬質ウレタンフォームの主原料は、以下の2つです。
- ポリイソシアネート(NCO基を2つ以上持つ化合物)
- ポリオール(OH基を2つ以上持つ化合物)
この主原料に、触媒(化学反応を促進させるもの)や発泡剤、整泡剤(均一で安定した泡をつくるためのもの)などの副原料を入れて混ぜると発泡し、やがて固まってフォームになります。
まるでパンが膨らむように、目の前で液体がもこもこと発泡して断熱材になっていく様子はとてもユニークです。
参考動画:東ソー株式会社「ポリウレタンはどうして発泡するの?」
ちなみに、ウレタンフォームには「硬質」と「軟質」があります。
軟質ウレタンフォームは主にクッション材に使われ、硬質ウレタンフォームは主に断熱材に使われています。
また、硬質ウレタンフォームには高密度タイプ(30倍発泡など)と低密度タイプ(100倍発泡など)があり、密度(発泡倍率)によって性能や価格が異なります。
一般的には高密度が高性能で高価。低密度は断熱性がやや劣り、湿気を通しやすいため、防湿対策がより重要になります。
▼なぜ熱を伝えにくい?
硬質ウレタンフォームの断熱性能の高さのヒミツは、その独特の構造にあります。具体的には、発泡で生じた泡がカギになっています。
高密度ウレタンフォームの泡は、ひとつひとつが独立しており、つながっていません。これは「独立気泡構造」と呼ばれ、まるで無数の小さな風船がぎゅっと集まっているような状態です。
その中には、熱を伝えにくいガスが閉じ込められています。さらに、気体が動かないため熱が伝わりにくくなります。その結果、断熱材の内と外で熱の移動が少なくなるのです。
加えて、この独立気泡構造は水や湿気にも強いです。湿気は断熱材の劣化やズレ落ちの原因になりますが、高密度のウレタンフォームはそれを防ぐ性質を持っています。
硬質ウレタンフォームの種類(ボード・現場発泡)と違い
硬質ウレタンフォームには、工場であらかじめ成形された《ボードタイプ》と、現場で直接吹き付けて発泡させる《現場発泡タイプ》の2種類があります。
どちらも高い断熱性能を持っていますが、施工方法や使われる場所に違いがあるため、目的に合わせて選択する必要があります。
▼ボードタイプ:工場でつくられた板状の断熱材
ボードタイプは、ウレタンフォームを工場で板状に成形し、両面にアルミ箔などの面材を貼り付けた製品です。主に外張り断熱工法に使われ、壁や屋根などに張る形で使用します。
このタイプの大きな強みは、品質が安定していること。工場生産のため、厚みや密度が均一で、安心して使えるのが魅力です。さらに、カットして張るだけなので、現場での作業効率も良好です。
一方で、施工精度が断熱性能に大きく影響する点には注意が必要です。切り貼りの際に隙間(断熱材の欠損部分)ができると、せっかくの断熱性能が発揮されません。
▼現場発泡タイプ:建物に直接吹き付ける断熱材
現場発泡タイプは、液体状の原料を施工現場に持ち込み、専用のスプレーガンで直接吹き付けて発泡させる断熱材です。吹き付けると瞬時に膨らみ、建物の隙間を埋めながら硬化していきます。
このタイプの最大のメリットは、気密性の高さ。複雑な形状の空間や隙間にも、ピタッと密着してくれます。断熱欠損がほとんど発生せず、設計どおりの断熱性能を発揮しやすいです。
ただし、一度吹き付けるとやり直しが難しく、均一な厚みにするのもコツがいるため、施工には高い技術が求められます。ですから、施工実績のある業者選びが重要です。
なお、現場発泡タイプについては、以下の記事でも解説しています。より詳しく知りたい方は、あわせてご覧ください。
》吹き付け断熱は後悔する?知っておきたいデメリットと対策を紹介
主要な他の断熱材との比較
断熱材は、繊維系断熱材とプラスチック(発泡樹脂)系断熱材の2種類に大別できます。硬質ウレタンフォームは、後者の代表格です。
両方の主な断熱材の熱伝導率(数字が低いほうが熱を伝えにくい)を比べてみましょう。
繊維系 |
・グラスウール:約0.05~0.03 ・ロックウール:約0.05~0.03 ・セルローズファイバー:約0.04~0.035 ・インシュレーションファイバー:約0.05~0.035 |
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発泡樹脂系 |
・ポリスチレンフォーム (押出法):約0.04~0.022以下 ・ポリスチレンフォーム (ビーズ法):約0.03~0.045 ・硬質ウレタンフォーム (ボード):約0.035~0.022以下 ・硬質ウレタンフォーム (吹き付け):約0.04~0.023 ・フェノールフォーム:約0.04~0.022以下 |
このように、硬質ウレタンフォームは他の断熱材と比較しても熱伝導率が低く、同じ厚さであればより高い断熱効果を発揮できます。
硬質ウレタンフォームのデメリットと課題
つづいて、硬質ウレタンフォームのメリットとデメリットをご紹介します。両面を知っておくと、採用の可否について、より的確な判断ができるようになります。
まずは、デメリットから3つご紹介します。
- 施工費用が比較的高めになる傾向がある
- 火災時に燃え広がる可能性がある
- 施工品質が仕上がりに大きく影響する
順番に詳しく解説していきましょう。
施工費用が比較的高めになる傾向がある
断熱材を検討するうえで、多くの方にとって気になるのが費用でしょう。
硬質ウレタンフォームは、グラスウールなどの一般的な断熱材に比べて、導入時のコストが高くなる傾向があります。
▼材料費と施工費がアップしがち
硬質ウレタンフォームは、材料そのものの単価が高めです。加えて、現場発泡タイプの場合は専用の機械やスプレーを使って施工する必要があり、施工費も高くなる傾向があります。
結果として、他の断熱材に比べて、全体的な施工費用が高くなるケースが少なくありません。
▼長期的な視点での判断が重要
とはいえ、初期費用だけで判断するのは早計です。硬質ウレタンフォームは断熱性能が非常に高いため、冷暖房の効率がよくなり、毎月の光熱費を抑えやすくなります。
また、室内の温度が安定することで健康面にも好影響があり、病気の予防や医療費の削減といった副次的なメリットも期待できます。
硬質ウレタンフォームは、長期的に見れば、初期コストを上回る経済効果が得られるかもしれません。
初期コストだけで判断せず、トータルコストや快適性も含めて、じっくり比較・検討してみましょう。
火災時に燃え広がる可能性がある
一般的に、発泡プラスチックは燃えやすい性質を持っています。ウレタンフォームも、着火すると燃え広がる恐れがあります。
実際、ウレタンフォームは火災予防条例で「指定可燃物」に指定されています。原液は「危険物第4類 (引火性液体)」に該当します。
また、フェノールフォームと比較すると、煙が出やすい点も注意が必要です。ですから、施工中は火気厳禁です。
▼建材として流通している製品の多くは難燃化されている
しかし現在、建材として流通している硬質ウレタンフォームの多くは、JIS規格などで定められた「難燃性」の基準を満たしています。つまり、燃えにくいように改良されています。
ただし「難燃=不燃」ではありません。取扱いにおいては、火気に対する注意を怠らないようにしなければなりません (これは、プラスチック材料全般に言えること)。
なお、以下の資料によると、硬質ウレタンフォームは「現場吹き付け」より「ボードタイプ」のほうが燃え広がりにくい、あるいは火災規模を小さく抑えられる可能性が示されています。
▼火災の拡大を抑えるには対策が必須
硬質ウレタンフォームを使用する際、石膏ボードなどの不燃材で覆って施工するのが一般的です。よって、万が一火災が起きても断熱材が直接炎にさらされず、燃え広がるリスクを抑えられます。
こうした安全対策は、建築基準法などで厳しく定められており、正しく施工されれば過度に心配する必要はありません。ただし、設計や施工においては、信頼できる施工会社を選ぶことが重要です。
火災リスクを心配される方は、使用する製品が「難燃性」であるか、また施工時に不燃材で適切に覆われるかを確認しましょう。
施工品質が仕上がりに大きく影響する
硬質ウレタンフォーム(とくに吹き付けタイプ)は、施工する職人の腕によって性能に差が出やすいのが特徴です。施工の仕上がりが悪ければ、本来の性能が発揮されません。
▼均一な吹き付けがカギ
吹き付け施工では、断熱材を隙間なく、均一な厚さで仕上げることがとても重要です。職人の技術が高ければ、柱や梁のまわりまでしっかりと密着し、優れた気密性と断熱性が得られます。
一方、施工に慣れていない職人だと、吹きムラができたり、部分的に薄くなってしまったりすることがあります。こうなると、断熱欠損が発生し、家の快適性や省エネ性にもマイナスです。
▼信頼できる業者選びが重要
硬質ウレタンフォームは、施工実績が豊富な《信頼できる建築会社》を選ぶことが大切です。見積もり段階で、施工方法や仕上がりのチェック体制、保証内容などをしっかり確認しましょう。
表面的な価格だけでなく、施工品質までしっかり見極める姿勢が、後悔しない家づくりにつながります。過去の施工事例や口コミを確認したり、疑問があれば遠慮せず質問したりしてみましょう。
硬質ウレタンフォームのメリット(強み)
つづいて、メリットをご紹介します。
- まるで魔法瓶!高断熱性で省エネに貢献
- ピタッと密着!高気密性で省エネと換気に貢献
- 優れた接着力!経年でズリ落ちる心配が少ない
それぞれ、詳しく解説していきましょう。
まるで魔法瓶!高断熱性で省エネに貢献
硬質ウレタンフォームの最大の特長は、なんと言ってもその「高断熱性」にあります。
住宅全体を包み込むように施工することで、まるで魔法瓶のように保温能力が高くなり、室内の快適な温度環境を保ってくれます。
▼冬はポカポカ、夏はひんやり
断熱性能が高いと、外気の影響を受けにくくなり、室内の気温が安定しやすくなります。
その結果、冷暖房の効率が上がり、消費電力を減らせるため、毎月の光熱費の節約につながります。
▼家中の温度差が少ない
断熱性が高い住宅は、部屋ごとの温度差が少ないのも魅力です。たとえば「リビングは暖かいのに廊下やトイレが寒い……」といった不快な状況を解消しやすくなります。
家全体がほぼ均一な温度に保たれることで、ヒートショックのリスクも軽減されます。とくにご年配の方は、安心して過ごせるようになるでしょう。
快適性と省エネ性を両立した住まいを目指すなら、断熱材選びはとても重要なポイントです。とくに寒冷な地域にお住まいの方にとって、硬質ウレタンフォームは心強い味方になります。
ピタッと密着!高気密性で省エネと換気に貢献
硬質ウレタンフォームは、スプレーガンで吹き付ける《現場発泡タイプ》が主流です。壁や屋根、床などに直接吹き付けることで、複雑な形状の場所でも隙間なく密着し、高い気密性を実現します。
この「ピタッと密着」する性質こそが、省エネや快適性を支える大きなポイントになります。
▼冷暖房効率がアップ
意外に思われるかもしれませんが、木造住宅は隙間だらけです。隙間があると、せっかく温めた(または冷やした)空気が逃げてしまい、冷暖房が強く稼働し続けることになります。
しかし、ウレタンフォームを床下・外壁・屋根などに吹き付けると、この隙間をふさぐことができます。空気の出入りが少なくなり、エアコンの稼働が抑えられ、光熱費の節約につながります。
▼隙間風などの侵入を防ぐ
高気密の住宅は、外からの隙間風だけでなく、花粉やPM2.5などの侵入も減らすことができます。また、遮音性も高まり、外からの騒音を抑えやすくなります。
さらに、換気も効率的におこなえるようになります。隙間だらけの住宅で24時間換気システムを稼働しても、うまく働きません。穴だらけのストローでコップのジュースを吸うようなものです。
一方、高気密住宅ならちゃんと計画どおりに吸気口から排気口へ空気を流せます。その結果、空気のよどみができにくくなり、いつも新鮮な空気を吸え、結露も生じにくくなります。
優れた接着力!経年でズリ落ちる心配が少ない
一度建てたら長く暮らすことになる住まいだからこそ、断熱材の耐久性は気になるところですよね。
硬質ウレタンフォームは、接着力と耐久性の両方に優れており、長期的に安心して使える断熱材のひとつです。
▼性能が長持ち
硬質ウレタンフォームは、経年劣化に強いという特長があります。
よく使われる繊維系断熱材は湿気を含むと性能が落ちます。一方、硬質ウレタンフォームは湿気を吸いにくいため、水分により断熱性能が低下する心配が少ないのです。
また、現場発泡タイプは下地にしっかり密着してくれるため、施工後に断熱材がズレてしまったり、垂れ下がったりする心配もほとんどありません。
▼家の構造を守る
さらに、硬質ウレタンフォームは結露を抑える効果にも優れています。
断熱性と気密性の高さによって、温度差による結露が発生しにくくなり、柱や梁といった家の構造材が湿気で腐食するのを防いでくれます。
結果として建物自体の寿命を延ばすことにもつながり、資産価値の減少を遅らせることにも役立ちます。
ただし、繰り返しになりますが硬質ウレタンフォームは施工技術で性能や寿命が変わります。ちゃんと実績のある、信頼できる建築会社を選ぶことが大切です。
まとめ:硬質ウレタンフォームは断熱性と気密性を両立したい人におすすめ
硬質ウレタンフォームは、高断熱・高気密を実現できる断熱材として注目されています。しかし、優れた性能を持つ一方で、コストや施工品質への配慮も必要です。
断熱材は「どれでも同じ」と考えたり建築会社に選定を丸投げしたりせず、自分の暮らしに合うものをしっかり選ぶことが大切です。それが、納得のいく家づくりにつながります。
そして何より、断熱材の性能を最大限に引き出すには、信頼できる建築会社を選ぶことが重要です。予算や建築会社の得意・不得意なども考慮しながら、後悔のない選択をしましょう。